購買者の自慢話から見る多角的価値観:「自分が受け取る価値」と「他人が受け取る価値」の違い

購買者の自慢話(それぞれの立ち位置による価値観の違い)

「俺はこんなに粗悪なものをこんなに高い料金で買ったんだ。どうだ、すごいだろ?」

という自慢話を聞いたことがありますか?

恐らく自虐的な笑い話ならあるかもしれませんが、こんな自慢話はあまり聞いたことがないでしょう。
大体の購買者の自慢話はこうなるはずです。

「俺はこんなに素晴らしいものをこんなに安く買ったんだ。凄いだろ」

何かを購入した際の自慢話は【優れた商品を、安く購入した場合】に起こることが多いです。例えば、

  • ブランド物のバッグをネットオークションで半額程度で手に入れた
  • 高級ホテルを何らかのセール割引で非常に安く予約した
  • 家電製品をポイントを使用してただ同然で手に入れた

これらがよく聞く購買者の自慢話です。
購買者は自分の欲求を満たすためにできる限り最高の条件で商品を購入できるように努力をするため、こういった自慢話が生まれます。

ただし、これは自分が自分の為に商品を購入する場合です。

これが例えば両親や家族、恋人へのプレゼントだったらどうでしょう?

「俺は日頃お世話になっている両親へ感謝の証として、楽天スーパーセールで半額の商品を購入したぜ!」

……あまり聞かない自慢話ですね。事実そうであったとしても親にプレゼントを買ったという事実を述べるに留めるでしょう。
どちらかというと以下のような自慢話なら一般的に聞いたことがあるではないでしょうか。

「けっこう値は張ったが恋人へのプレゼントにヴィトンのバッグをプレゼントした」

いいものを高く手に入れたという自慢話ですね。

ではなぜこのように間逆な出来事が起きるのでしょう。

それは購買者は様々な立ち位置からの多角的な価値観を持ち合わせているからです。
以下の表を御覧ください。

支払い者 受益者
自分 他人
自分  A B
他人 C D

上記は支払い者と受益者が自分か他人かを区別するための表です。

A:受益 自分/支払い 自分
支払い・受益共に自分の場合はできるだけいいものをできるだけ安く手に入れようと努力します。価格を優先しているグループです。

B:受益 他人/支払い 自分
誰かへのプレゼントなどは受益者が他人となるのでBとなります。
この場合、支払い者は品質を優先し、極端なセールや安物を嫌がります。

C:受益 自分/支払い 他人
こちらは他人のお金で自分が何かをもらう場合。誰かにプレゼントされたり会社の慰安旅行などがこれにあたります。

D:受益 他人/支払い 他人
こちらのケースは宿泊業界だと旅行代理店の立ち位置が最もわかり安いです。
その他には会議企画者などがこれにあたります。

このように、支払い、受益ともに自分の場合(A)は価格に重点を置いて品物を選ぶ傾向にあるが、誰かへのプレゼントだった場合(B)は価格よりも品質を求める傾向に変わります。

ケースCはまさに人様のお金で飲み食いするような場合なので、この機会にできるだけ高価なものを購入しようとする傾向が強いです。とは言え自分のお金ではないので価格・品質ともにA、Bの場合よりもどんぶり勘定であることは否めません。

受益・支払いともに他人の場合(D)の顧客は代理店をイメージするといいです。
定められた予算と予算を使用する目的があるはずで、どちらも外すわけにはいかないはずなのでセールス担当者は彼らと綿密なすり合わせを行い、受注を取りに行く必要があります。

宿泊業界における多角的価値観への対策

A:受益 自分/支払い 自分
彼らは価格から商品をピックアップし、その上で最も品質が高いと感じるものを選ぶ傾向にあります。割引プランやポイントプラン等が好まれますが、彼らが「品質」も求めていることを忘れてはいけません。安さだけでなく優れた商品である必要があります。

B:受益 他人/支払い 自分
アニバーサリープランなどが対策となるでしょう。
このプランは安くする必要はなく、より高品質な商品にするといいでしょう。バースデーケーキやエステサロンのクーポン、プレミアムルーム、食事グレードアップなど、付帯をつけることが喜ばれます。

C:受益 自分/支払い 他人
プレゼントの他だと会社や地方自治体からお金が出ている場合が多く、その場合、交渉はスムーズであることが多いです。内容によってはグレードの高いものを求めている場合もあるので適切にアップセルしていくことをおすすめします。

D:受益 他人/支払い 他人
予算があらかじめ決まっており柔軟性が欠けるため、ツアー限定料金や宿泊宴会料金等、通常よりも安く設定しておく方が受注につなげやすいです。クローズドの場合が多く、割引はしやすいです。
また大型の団体などで予算がオーバーしている場合は料金交渉も発生しやすく、値引きしてでも取るべきか、断るべきかの見極めが必要です。逆に予算に余裕がありそうな場合はオプションの追加などのアップセルをしていきましょう。

上記は一例ではありますがお客様には様々な立ち位置があり、それを理解していることがレベニューマネージャーには必要です。

なぜならこれらの要素を理解していない場合、使用できる戦術が単純な値下げなどレートコントロール一辺倒になってしまうからです。
お客様が持つ多角的な価値観を理解していれば、これが無用な値下げにつながり、ホテルの売上を落とすことになりかねないことに気がつくはずです。

施設によっても顧客セグメントは大きく異なるでしょうし、まずは自施設内でA~Dの顧客を整理し、どのようなマーケティングが適切かを考えてみるのがいいかもしれませんね。